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3人の娘を失った、あるパレスチナ人の選択
国際 2017.11.11

3人の娘を失った、あるパレスチナ人の選択

つい最近まで、一人のパレスチナ人医師が来日し、日本各地で講演会を行っていた。イゼルディン・アブエライシュ氏―イスラエルの病院で、不妊治療の第一人者として活躍していた人物だ。ガザ地区の難民キャンプ出身でハーバード大学卒という経歴も驚きだが、もっと驚かされるのは彼の通過した逆境の方だろう。

2009年に彼はイスラエル軍のガザ地区攻撃で3人の娘と姪を失った。もちろん、彼と彼の家族は非戦闘員だった。

攻撃は2度。

一度目の戦車の砲撃で娘2人と姪が即死した。二度目の砲撃は、一家の母親代わりを務めていた長女の命を奪った。

医療活動を通じ、イスラエルとガザの平和の架け橋になろうと努力していたアブエライシュ氏にとってはまさかの仕打ちだ。

報復を求める声が周囲から上がった。だが、彼はそれを望まなかった。憎むことは争いを長引かせるだけだ、憎しみは人を蝕む病気であり、私は人を犠牲にする憎しみには負けてはいけないというのが、地獄から立ち上がった彼の決意だった。

だが、それは簡単な決意ではなかった。娘たちが死んだ後も試練は続いた。イスラエル軍は自分たちが民間人に手を出してしまったと認めることを渋り、またアブエライシュ氏に否定的なイスラエル人も多かった。ガザへの空爆は、イスラエルを襲う過激派を一掃するためには必要なのことと信じているからだ。

現在、彼はカナダのトロント大学の准教授を務めながら、中東の女性たちの教育支援を行っている。また、講演や著書を通じて、娘たちが死んだときに何が起きたのかを世界中で訴えている。アブエライシュ氏は「イスラエルとパレスチナの平和のためには真実が必要だ。憎しみという病気にかかった人間が行うべきリハビリは、真実を知ることだ」と語っている。

このように力強く訴えていながら、なぜ憎しみを乗り越えることができたのか?その問いに彼はこう答えている。

「信仰から力をもらったのです。神への信仰から、怒りや勇気を抑える寛大さを与えられました」

また、事故当時、生き残った13歳の息子も動転する彼にこう語ったそうだ。

「悲しまないで。お姉ちゃんたちはお母さんといっしょになれて幸せだよ」

信仰とは、なんと気高く、かくも人を強くするのか。

この記事を書いた人 青井坂道 歴史・文学・自然・思想の好きなライター。ただいま、自己研鑽に励む日々を送ってます。 青井坂道の記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
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