夢の海底地形図
人類が把握できている火星の表面は、どのくらいかご存じだろうか?実はほぼ100%に近い。月の表面も同じく、ほぼ判明している。
では、海底の地形はどれだけ解明されているのだろうか?いろんな意見があるが、約15%くらいらしい。まさに海底は人類に残された最後のフロンティアなのだ。
実は日本財団がおもしろいプロジェクトを立ち上げている。「 Seabed2030 」という国際プロジェクトで、 2030 年までに海底地形図100%完成を目指している。ちなみに、現在の技術でデータを収集し地形図を作ろうとすると、完成には970年ほどかかるそうだ。もちろん、資金などを投入すれば期間短縮は可能なのだが、一隻の観測船を一日使うだけで 500 ~ 1000 万はかかるらしい。その上、技術者の数も限られてくるため、資金によるゴリ押しですら限界にあるのが現状なのだ。
日本財団はその解決のため、このプロジェクトの一環で、「 DeSET PROJECT 」という取り組みを行っている。これは(株)リバネスと共同実施している海底探査技術の開発を促すプロジェクトだ。既存のやり方に捉われない技術を見出すために、研究者やベンチャー企業、町工場などを分野を超えてチーム化し、研究費の資金提供から開発技術の事業化まで多面的な支援を計画している。つまり、超異分野同士による研究で、これまでにない発想からイノベーションを起こし、「970年」という期間の短縮を図る技術を模索するという流れのプロジェクトだ。
(株)リバネスは民間企業であると同時に「研究者集団」を自負する会社で、異なる分野同士を繋げる役割を担っている(例・経済学者と工業開発業者同士が情報をやりとりする際、それぞれの専門用語を解説して両者の相互理解を手助けする)。日本での超異分野の融合は遅れている一方、アメリカの宇宙開発等では積極的に行われているそうだ。これは興味深い挑戦と言える。
最後に、なぜこの海底地形図を完成させる必要があるかについて述べよう。意外とたくさんあって、ざっと挙げるだけでも、石油やレアメタルなどの資源探査、気象シュミレーション、津波や海底火山噴火などの予測、海洋生物の調査、海洋事故における救出作業などたくさんある。海底地図を研究することで、用途がさらに増える可能性は高い。だが、問題解決やビジネスチャンスだけが、海底地形図完成へのモチベーションとはならない。残された地球最後の謎に挑みたいという純粋な意欲が大きな原動力なのだ。一言で言ってしまえば、「夢」に挑戦するプロジェクトなのである。日本は海洋国家と呼ばれるが、海洋事業や海そのものの価値に無関心な国民も多い。このプロジェクトが人々の「夢」に火をつ けてくれることを願ってやまない。