コミュニティ チーム 家族 コミュニケーション 寄稿記事/取材依頼/お問い合わせ
よき隣人になれますか?市境を抜けるとそこは「ワラビスタン」であった。
コミュニティ コミュニティ 2018.02.05

よき隣人になれますか?市境を抜けるとそこは「ワラビスタン」であった。

クルド人についての悲しいニュースをここ数日耳にするが、正直なところ中東情勢は複雑怪奇な印象があり、なにが起こっているのかをスッキリ理解するのが困難だと常々感じる。はっきり言ってクルド人が戦っている相手すら分からない。これはあまりに無関心だからなのか。もし私にクルド人の友人がいればもっと理解しようと試みるのだろうかとモヤモヤしている。

少し前に、近場に住んでいる知り合い数名と車を1時間半くらい走らせたところにある高麗神社へ行った。どちらかと言えばドライブしながらたまにはゆっくり話そうという趣旨だったので、渋滞もそこまで気にならず和やかな休日を過ごせた。おいしいリンゴを分けてもらった事や、配られたいくつかの飴がなんとも嬉しかった。

高麗神社のある地域は、1300年前に高句麗から亡命してきた渡来人たちが入植したことで知られている。戦乱によって故国を失い、現在の静岡、山梨、神奈川、千葉、茨城、栃木などの各地に身を寄せていた渡来人1799人が新設された高麗郡に集まってきて開拓したという。バラバラでいるより一地域で暮らしたほうがよいのではという事だったのだろうか。

高麗神社を歩きながら、最近似たような話を聞いた事を思い出した。自宅のすぐ隣の市で形成されているクルド人たちのコミュニティ「ワラビスタン」の事だ。

クルド人難民の第二の故郷「ワラビスタン」

クルド人は「国なき最大の民族」とも呼ばれ、約3000万人が中東の各地に跨って暮らしている。日本における在日クルド人は2000人程度。その内の約1300人が、埼玉県の蕨市・川口市に集中して暮らしているという。蕨市周辺に暮らす彼らは「クルド人の土地」を意味する「クルディスタン」と「蕨」を掛け合わせて「ワラビスタン」というコミュニティを形成しているのだ。

借りぐらしをするクルド人を多く抱える「ワラビスタン」。彼らは日本社会を概ね友好的だと感じながらも、「難民申請」をほとんど受理しないなどの越えられない壁に悩まされているようだ。さらに彼らの約30%は「仮放免」という状態にあり在留資格を持っていないという。仮放免とは本国への退去命令が出て収容された外国人が家族や友人、支援団体などを身元保証人とし、収容所から暫定的に出所できるという制度であり、仮放免中は仕事につくことが許されず、就労の事実が見つかれば、再び拘束される恐れがあるそうだ。

そんな現状のなかで地域社会とトラブルを起こさずに信頼を得られるよう、ワラビスタンのコミュニティリーダーたちは地域への配慮を怠ることなく、この問題に向き合っているように見受けられる。

異文化共生を考える上で、それぞれの文化圏の人たちが帰属できるコミュニティが明確に存在し、そこに強い責任感をもった「顔役」が立っていることや、地域社会に対し適度な線引きや歩み寄りを意識することは、重要なポイントだと思う。この地域には中国系のニューカマーが多く暮らす「芝園団地」なども存在していて非常に興味深い。

参考記事:「埼玉の九龍城砦」

難民の受け入れに対して課題を抱えている日本にも、1300年前には高麗郡を設置したように思い切った舵取りを行ったケースがあったことを思うと、この現代、ワラビスタンが安息の地になるための道筋について、受け入れる側がとるべきスマートな態度とはどのようなものなのかについて考えさせられる。

断続的な渋滞続きになってしまっても、いつか蕨市周辺が在日クルド人たちにとって「シビックプライド」を持てる愛着のある地域になるよう着実に進んでいってほしいし、私個人としても何かを分け合える「よき隣人」になれるよう、少しでも歩み寄りたいなと思っている。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
よき隣人になれますか?市境を抜けるとそこは「ワラビスタン」であった。

この記事が気に入ったら

関連記事