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仙人になるためのキャリアパス

友人から何度か着信があった。あまりいい話ではないだろうなと思いつつ、一呼吸おいてかけ直してみた。彼は任されていた事業所をここまで働きづめで守ってきた。他の事業所が次々と畳まれていくなか、なんとか黒字を出し続けて粘っていたのだが、上の方でそろそろ整理したいという意見が強まっているようだと、最近そんな事を話していた。

電話が繋がると「ついに松の木を登り始めましたよ」というような言い回しで苦しい状況を伝えてきた。芥川龍之介の「仙人」を引用したのだ。なんと文学的な表現だろうと感心させられた。そして同時に深い失望が伝わってきた。

芥川龍之介の「仙人」は、仙人になりたいという男が騙され、給料なしで20年間働かされる話である。挙句の果てに、雇い主から庭の高い松の木に登らさせられ、その一番高い梢で両手と両足を離すように指示をされる。要するに雇い主は、その男を騙しきれなくなったので、命を奪ってしまおうと考えたわけだ。

素直にその指示に従った男の結末がどうなったのかは伏せておくとして、その男の人物像が人を疑う事を知らないような抜け作として描かれているので、読者としてはハラハラする。ただ仮に、自分の友人のように上の意図を探りながら働いているタイプの人間の場合はどうだろう。騙されていることに葛藤を覚えながら20年間働き、あまりにも軽々しく扱われ、最後はぞんざいに捨てられる道筋を把握していながらも、仕事に真摯に取り組み続ける事ができたのであれば、たしかに仙人になれてもおかしくない。

せめて人間らしく

ただそんなキャリアパスが現実の会社に存在してはいけないのだ。しかし、実際にそれに近い雇い主や上司が存在するのもまた事実である。私の友人の場合、ある程度まで木を登ったところで、「グループ企業内に次のステップを準備しているので検討してほしい」と言われ、事業所を畳むことを決心して、また少し登ったところで「履歴書を準備してくれ」と言われたそうだ。

もちろん両者間に齟齬があるだけで、いい条件を提示されている可能性もあるので一概には言えないが、職場が変わるという出来事はキラーストレスにもなりかねない。庭の木に登れと指示するような進め方ではなく、時間をとって膝を突き合わせて状況を正直に説明し、またなにより今までの仕事についてしっかりと評価をすべきだと思う。そこから次の話をするのが筋であるはずだ。そんなことを何度かの電話で考えさせられた。

なんにしても、もしその男が仙人になれたとして、俗世を離れて暮らすのが仙人であるなら、会社に残されているのはいつだって不完全な人間たちなのである。悪意がなくても、自分の部下や同僚がふらふら松の木のほうに歩いていたら、なにか変だなと、せめて気づきたいものだ。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>>