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稀代のヒットメーカーが曲作りを手放してまで聞いてほしかった大事な話「知音①」
生活 2018.01.24

稀代のヒットメーカーが曲作りを手放してまで聞いてほしかった大事な話「知音①」

「知音」という言葉がある。古い言葉で使いどころがなかなか無い。

辞書を引くと、親しい友人、恋人、はたまた愛人、などの意味だとまとめられがちだが、それだと少し軽い印象を受ける。「知音」が故事成語であり、こんな逸話から生まれたからだ。

琴の名人として名を馳せた「伯牙」は、自分の奏でる曲を、その心まで理解してくれるのは「鍾子期」ただ一人だと考えていた。そして「鍾子期」が亡くなると彼を弔う曲を奏でた後に弦を絶ち、生涯2度と琴を手にしなかったという。

そういう意味で知音というのは「真の理解者」であり、自身のアイデンティティに深く関り、なにより人生において大切にしている事を、あたかも同じ目線で分かっていてくれるような、そんな掛け替えのない存在を表す言葉として使用したい。

コミュニケーションがとれない孤独

「自発的な音楽活動は本日をもって退こうと思っている」という、小室哲哉の記者会見にはたくさんの事を考えさせられた。その中でもパートナーとコミュニケーションが満足にとれない苦しみについて語るくだりが個人的には印象的だった。

『わかってもらいたいんだけど、わかってもらえない。聞いてもらいたいんだけど、聞いて…もらえないわけでないんですけど、聞いてはくれるんだけれども「理解をしてもらっているのかな?」と思う妻。ピアノのフレーズをちょっと弾いても、30秒も聞くのがもたないくらいの奥さん、妻。というところの環境で…』

大人の女性に対してのコミュニケーション、会話のやりとりが日に日にできなくなってきたこと。歌う事、また音楽に対する関心をまるごと失ってしまったパートナーに向き合ってきたことが淡々と語られていく。疲れた雰囲気が漂ってはいるものの「聞いてもらいたい、伝えたい」という強い意志が感じられ、およそ1時間40分の会見から目が離せなかった。

最後に一言だけすみません

「これで会見を終わらせていただきます」という司会の一言で締め括られようとしたところに、小室哲哉が「最後に一言だけすみません」とマイクを持ち上げた。ここで大事なことが語られるのは明らかだった。

「僕たった1人のこんな人間の言動などで、日本であったり社会が動くとはまったく思っておりませんが、先ほども言いましたように、なんとなくですが、高齢化社会に向けてであったりとか、介護みたいなことの大変さみたいなことであったりとか、社会のこの時代のストレスであったりとか、そういうことに少しずつですけど、この10年で触れて…きたのかなと思っているので、こういったことを発信することで、日本もそういったことを、みなさんも含めて、なにかいい方向に少しでもみなさんが幸せになる方向に動いてくれたらいいなと心から思っております。微力ですが、少し、なにか響けばいいなと思っております。ありがとうございます」

孤独を緩める。負担を支え合う。

終わりゆく平成という時代の「寵児」が、その弦を絶ちながら奏でた最後のメッセージは、とても意義深く、多くの人の琴線をしっかり揺さぶったはずだ。

今回の会見で改めて考えさせられたのは、高齢化、介護、社会のストレスを抱え込み、孤独と負担を感じている人の張りつめた糸は簡単に切れてしまうという事だ。またそれを分かって寄り添っていける「真の理解者」になるための第一歩は、話を聴かせてもらうことだという事も。

雑談でもいいので気楽に話してもらえる信頼関係を築く事が大事なのだろう。特に男性は自分の口から「孤独である」「助けてほしい」と簡単に打ち明けられないところがあるというから、問題を抱え込みやすいのだ。

小室哲哉にとっての知音は「平成」であり、それ以上に「歌手としての妻」だったのだと思う。もしそうなら、これからの音楽の流行を牽引することはおそらくできないだろう。それでも社会の風潮を変えることはできるのではないだろうか。才能は枯れることもあるが、経験は豊かに彩られていく。叶う事なら、矢継ぎ早に曲を書いて、日本中の心を動かしたあの頃のように、力強い発信を続けて頂けないだろうか。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>>
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