独創から共創へ
「科学が大きく変わりつつある。」
とある博士がそう語った。ノーベル賞受賞者だ。
「科学は人の営みである。だから、自分一人で部屋に閉じこもってはできない。」
その昔、科学で新しい世界を切り開くのは天才的個人であった。アインシュタインやニュートンなどはその典型に違いない。だが、現在はそういった風潮が若干異なってきている。
だが、博士曰く、
「自分が調べたことを人に分かりやすく伝えることはとても大切なこと。そのためには多くの人と交流すべき。交流することで『ひらめき』が与えられる。何を研究の『課題』とすべきか、それが明確になるだけで研究の四分の三が達成されている。」
さらにこうも話している。
「これからの科学は独創性だけではなく、共創性、つまり協力し合い、共に創り上げることも大事になる。最近では数学ですらその傾向にある。数学ほど独創性が冴えるものはないが、その分野ですら共創性によって発展する流れが出来てきている。」
こういったことが可能なのもインターネット環境の普及によるところが大きいのだろう。やろうと思えば、世界中の科学者がリアルタイムで自分の研究内容を共有できるのだから、それも当然と言えば当然の話だ。
「科学は一人ではできない。」
博士の言葉は重く、深い。この言葉の『科学』という部分には、多くの別の言葉が入り得るからだ。例えば、昔は経営者といえば、カリスマであることが成功の法則であるかのように思われていた時代もあった。一人の実力者が何でもかんでもやり遂げてしまう、それは確かに後ろをついて行く者にとっては心強い。だが、彼らはやがて自分で物事を考えなくなってしまう。いわゆる指示待ち人間の完成だ。同時にカリスマの持つ能力以上の成果を出すことができない会社の出来上がりでもある。「経営は一人ではできない」のだ。
コミュニケーション・ツールが飛躍的発展を遂げる中、いかに良質なコミュニケーションを行うか。それがコミュニティを形成し、現代を生きる我々が避けては通れない道となっている。