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人類から孤独を追い払う力
コミュニティ コミュニティ 2017.08.20

人類から孤独を追い払う力

帰宅時に、最寄駅のロータリーを抜けて線路沿いの道を少し歩くと、遅い時間であれば移動販売の焼き鳥屋をみかける事があります。

あちこちを回って最後にここに来るそうで、売れ残れば終電の客が通る時間まで粘る事もあるとのこと。初老の店主が夏場は地獄だよと言いながら鳥を焼いています。パネルバンの後部を観音開きにしてお店を構えているから、中に座っているだけでも熱がこもってなかなか暑そうです。

形成されていく謎のコミュニティ

たまに気が向くとフラッと寄って焼いてもらう事があり、出来上がるまで少し時間がかかるので炭の具合なんかを眺めながらのんびり待つんですが、いつの頃からか若い女性客が一つだけ置いてあるパイプ椅子にべったり座っていることがあって、店主とかなり打ち解けた様子で話をしていたりします。

それから帰り時間が焼き鳥屋の営業に重なる度に、お店の前に集まって歓談している若者の顔ぶれが少しずつ増えているように感じられました。移動販売なので鳥が焼けたらお客は通常お店を去るんですが、悪い意味ではなく、どうやら彼らはたむろしているんだなという様子。こちらも素通りする事のほうが多いので、どんな顔ぶれかは覚えてないですし、いまいち全容が把握できていないのですが、そこには一回性の親密さではなく、なにか連続して再現されながら、ある傾向をもった人を取り込んで繋げていく類の小さなコミュニティが形成されているようでした。口数が少ないながらもコミュニケーションの中心には初老の店主がいるわけですが、その人柄だけでは説明できない何か人を惹きつけるものが潜んでるように感じました。

火を囲む暖かい時間

そしてそこに潜むものの正体はもしかすると「火の力」ではないかなと思うようになりました。踊るように姿を変えて飽きることのない火をみつめて過ごす時間。お酒を飲むわけでもなく立ち話をしてるだけなのですが、熱源を拠り所にその前でくつろいで会話を楽しむ若いお客たち。薪がはぜる音はしなくても、白くなった炭に脂がパチパチとおいしそうに焼けて、それが混ざったような火の匂いにみんなが包まれている。

生物人類学者リチャード・ランガムが「人間の社会性は火を使って料理したものを共食する生活の中で育まれてきた」と語っているそうですが、案外そういうものなのかもしれないなと感じました。言葉が途切れても、気持ちが火に寄り添っているからか心地よい間合になる。そんな焚き火を囲んで打ち解けるような情感のなかで食べ物を共有し分け合いながらながら社会性が育まれていく。

ボブ・マーリーの「No Woman, No Cry 」みたいに夜通し燃える丸太をみつめてコーンミールのお粥を大事に分け合ったり、これからのことを話して「泣くんじゃないよ」とか「きっとうまくいく」みたいな言葉を掛け合いながら。もしかするとそんな歌のように人類は美しい火によって孤独を遠ざけて繋がりを深めてきたのかな、なんて事をその小さなコミュニティに感じました。

火の周りで交わされる言葉には濃厚な感情の接触がみられるという研究もあります。心を開いて深く話をするときには火の力を借りるのも有効なのかもしれません。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
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