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きょうは会社を休んで仁王を彫ります

明日よければ東京国立博物館の「運慶展」に行かないかと友人に誘われた。考えてみると運慶についてほとんど知らない。それこそ夏目漱石の「夢十夜」の第六夜に出てくる運慶くらいしか知らない。急に声をかけられたこともあり調べることもままならずにその日は寝てしまった。なんとなく期待をしてみたものの特に運慶の夢をみることもなく、当日の朝を迎えた。


夢十夜は「こんな夢を見た」から始まるやや幻想的なテイストの10作の短編からなっている。第六夜では、護国寺の山門で運慶が仁王像を彫っているという話を聞いて行ってみると、なぜ明治の今まで生きているかはわからないが、大勢の人たちに囲まれて、たしかに運慶がそこにはいた。皆口々に「大自在の妙境に達している」とか「よくああ無造作に鑿(ノミ)を使って、思うような眉や鼻ができるものだな」とその仕事っぷりに感心している。ただその見物人の一人が、あれは眉や鼻を鑿で作るのではなく、木の中に埋まっている眉や鼻を鑿と槌の力で掘り出しているだけで、それは土の中から石を掘り出すようなものだから間違いがない、と言っているのを聞いて、ふとそれなら自分にもできるのではないかと思い、自分も仁王を彫ってみようと家に帰るという話だ。

プロジェクトリーダー運慶

ただその見物人の一人が言った「さすがは運慶だな。眼中に我々なしだ。天下の英雄はただ仁王と我れとあるのみと云う態度だ。天晴れだ」という台詞が非常に印象に残っていて、それこそ生涯に12万体を彫ったとされる円空のいわゆる一刀彫のような、没入して仏像を彫るイメージが運慶にも強かった。

ただ今回の運慶展のコンセプトとして、父・康慶、息子・湛慶と親子3代で樹立した作風とその継承があり、また彼らを中心に構成される慶派とよばれた仏師の工房についてもフォーカスされている。当時、大きな仏像をつくる際には、一本の原木から掘り出すのではなく、プラモデルではないけれども、分業方式でそれぞれのパーツをつくりながら、効率よく短期間で仕上げていく「寄木造」というスタイルが洗練されていたという。要するにひとりの仏師であると同時に、チーム慶派を率いていたのが運慶なのである。

あの有名な東大寺南大門の「金剛力士像」も、運慶が製作総指揮を担当して、30名弱の仏師とともに70日もかからずにつくり上げたという。「阿形像」「吽形像」とも、それぞれ3000ものパーツで構成されているそうで、それをまるで生きているかのような姿に作り上げるというのは、技術やセンスだけでなく、非常に優れたチーム統括力をもっていたんだと考えられる。まあそういう事情もあってなのか、この作品は運慶が作りましたと断言できる作品はあまりないようだ。今回の運慶展でも「作風からしておそらく運慶の影響を近くで受けたと考えられる仏師の作だと想定できる…」のような、やや歯切れのわるいキャプションも少なくなかった。

余談になるが「阿」は運慶・「吽」を快慶が作ったといつか聞いた記憶があったし、二人はライバル関係にあると思っていたが、実際はどうやら二人で「阿形像」を担当して、「吽形像」は息子の湛慶が担当したらしい。そのあたりの関係性も非常に興味深い。

世界は誰かの仕事でできている

今回の展示は、金剛力士像を運んでくることはさすがに無理だとしても22体の運慶作品が集結するとのことで盛況だった。入場までの1時間程度の待ち時間、半年前に福祉系に転職した友人から仕事の話を聞かせてもったのだが、半年働いただけで、ここまで業界への理解が深まるのかと愕然とさせられた。それまではお互いボランティアとしてその分野に関わっていたこともあり、急に差が開いてしまったように感じられた。

そんな待ち時間を経て鑑賞したこともあり、もし当時の仏師たちの業界に足を踏み入れることができれば、たとえば工房で少しでも共に汗を流す事ができれば、この仏像たちの素晴らしさを十分に味わえるのではないかという変なもどかしさに捕らわれた。一つの仏像を完成させるまでの工程を知りたい。そしてチームでのプロジェクトの進め方も非常に気になる。慶派のことを大河ドラマかなにかで扱ってはくれないものか。やはり周辺知識がないと、仏像はやや取っ付きづらい印象を受けるのだ。まあ仏像に限らず、今、自分の周りにあるあらゆる物にしても、それを手がけた業界に足を踏み入れてみなければ、その真価は分からないものなのだろう。

当然のことながら自分は、家に帰って仁王をつくれるような気持には、とてもなれなかった。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>>