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電車で会った観音菩薩様
コミュニケーション 2017.08.23

電車で会った観音菩薩様

先日、電車の中で立ちながら、ぼんやり考え事をしていた時、こんな光景に出会った。

3人の子どもとベビーカーと沢山の荷物を携えたお母さんが、電車でベビーカーを折り畳み、3人のうち下の小さな2人の子どもたちを優先席に座らせて、一番上の男の子と一緒に立っていた。
よくある光景の一つに過ぎない、はずだった。

ところが、下の子どもたちが持っているおもちゃを取り合い、少し大きな声を上げて喧嘩を始めて、お母さんが仲裁に入ったその時だった。

「うるっせえなぁ」

明らかに侮蔑感を込めた言葉が、その親子に投げかけられた。
ハッとした私は、思わず視線を声の方向へ向けると、声の主は親子の向かい側に座っているテニスラケットを持った老人だった。
お母さんは「すみません、すみません」と老人に謝り、下の子どもたちをあやそうとするがまだグズグズしていて、なかなか収まらない様子だった。

老人は、なおもその親子を忌み嫌うように睨みつけ、顔には「うるさい子連れは電車から降りろ」と言わんばかりだった。
その老人の放つ、煩わしいものを排除しようという空気が充満し、一瞬にしてその車両の優先席がピリピリとした緊張感を帯び始めたその時だった。

「まあまあ!元気でかわいい子たちねえ。座席に座っているだけでも偉いわねえ。うちは娘が嫁いじゃって遠いところに住んでいるから滅多に孫に会えないんだけど、ちょうどこれくらいの小さな子なのよ。」
親子の傍らに座っていた50代位のご婦人が、喧嘩をしている下の子どもたちに声をかけたのだ。

その言葉を聞いて、自分たちに注目が向いていることを感じた子どもたちはパッと喧嘩をやめ、ニコニコと笑顔に変わると、ご婦人に愛想を振りまき始めた。
ご婦人と子どもたちは楽しそうにおしゃべりを始め、こわばったお母さんの表情にもやっと安堵が見えた。

このタイミングで、なんという助け舟!
ご婦人の放った言葉は、親子に救済の光を投げかけたばかりでなく、重苦しい優先席の車両の空気まで一気に変えた。

そのご婦人の行動は、子どもたちをあやす言葉をかけることの裏に、(小さい子なんて、みんなこうよ。私たち大人がおおらかでなくって、どうすんの!)というメッセージも忍ばせられていたように感じたのは、私だけだろうか。

私には、笑顔ではつらつと親子に言葉をかけるご婦人が、まるで観音菩薩様に見えた。

この記事を書いた人 おおつかけいこ 教師歴10年の経験をもつ教育者。ライティングの「ものかき」でマネージャーを務めるほか幼児教室も主宰 おおつかけいこの記事をもっと読む>>
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