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「…どこだっけ?福井県の皆さまごめんなさい!」PRとはよりよい関係を構築するための活動全般のことです!!
コミュニケーション コミュニケーション 2018.05.28

「…どこだっけ?福井県の皆さまごめんなさい!」PRとはよりよい関係を構築するための活動全般のことです!!

浅草で道端のベンチに座っていると、中学生2人に声をかけられた。どうやら福井県から修学旅行できているらしい。道を聞かれるのかと思ったら「簡単なアンケートに協力してもらえませんか?」ということで「いいですよ」と快く了承した。

アンケート内容はシンプルに三つ。まず一つ目は「福井県はどこだと思いますか?」だった。いわゆる白地図の日本列島が提示される。

選択式回答ではないのか…、地理にかなり疎いことについて常々問題だなと気にはなってはいたのだが、浅草界隈で福井の位置を尋ねられるのは、まさかの不意打ちである。

福井県の位置がいまいち分からない

もちろんここは福井の中学生の手前、いい大人として当然正解しておきたいところだが、しかし「福井県」と「富山県」の位置関係がどっちがどっちだったか曖昧になっている。恐れていたことが現実になってしまった。本当にごめんなさい。

中学生の表情をちらっと伺うと、みのもんた並みに険しかった。ヒントをくれる気配はない。もう一度ちらりと顔色を伺うと、なるほど険しいというか不正確を覚悟をしてるようにもみえた。白地図の問題個所を凝視する。これはシビアな状況だなと眉間にしわが寄る。なんとか切り抜けたい。フィフティ・フィフティである。

たとえばこの状況、今話している本人の前でその名前が思い出せない時の気まずさに似ている。もしかしたら大変な失礼にあたるのではないだろうか。額に汗がじんわり浮かぶ。そして緊張感に耐えかねて絞り出す「ここですかね」と指さしたファイナルアンサーは、なんと不正解だった。すかさず「こっちですよ」と指摘される。

「福井県と聞いて思い浮かぶものは?」

なかなかの失態を演じてしまい顔を伏せたくなったが、矢継ぎ早に次の質問である。「福井県と聞いて思い浮かぶものは?」だった。真っ先に、福井県に原発が多いことが頭に浮かんだ。そして東尋坊の崖っぷち的な風景が目の前に広がっていく。

しかしこれはどちらも他県の人間が配慮もなく踏み込んではいけないセンシティブな領域なのかもしれないし、そもそもここで答えるべき回答ではない気がする。いま引っ張り出すべきは、おそらく無難に特産品だ。

しかし、いくら脳内検索をかけても出てこない。ちょうど背後には、日本全国のアンテナショップを一か所に集めたような商業施設「まるごとにっぽん」が賑わいをみせている。食卓を彩る「全国各地のとっておき」が所狭しと販売されている地方創生の拠点だ。

手が届きそうなところに正解が並んでいるのに、どうすることもできず素直に「ごめんなさい、分からないです」と謝った。

そして3つ目の質問は「何があれば福井に来てくれますか?」だった。すっかり頭が真っ白になっていたので「おいしい魚…」と答えるので精一杯だった。

「ありがとうございました」とポケットティッシュとA4の手作り観光案内を渡してくれた。福井県敦賀市の中学生だったようで、「気比神宮」などが紹介されていた。大鳥居の保存修理が今年1月に終わり「深い朱色の光沢を放つ大鳥居は敦賀のシンボルらしく威厳ある表情を見せている」と解説があった。

また東京駅から敦賀駅までの所要時間や観光コースなども載っていて、新幹線であればおよそ3時間でいけるそうだ。敦賀の「旨いもんマップ」のQRコードもあって、さっそく読み込んでみると「敦賀フグ」をはじめ、魅力的な食の数々が紹介されている。 敦賀旨いもんマップ

敦賀PR①

PR活動は一方的な発信ではなく「関係構築」

なんにしても修学旅行で観光地を巡るだけでなく、地元の認知度の調査や、観光名所、特産品のPRをする時間が設けられているのは素晴らしいなと感心させられる。これこそまさしく修学ではないだろうか。

ちょうど数日前に、あるスタディグループで「PR」について解説してもらった。PR(Public Relations)とは、情報の一方的な発信ではなく「よりよい関係を構築するための活動全般」のことだという。

それは人々に理解してもらい、信頼関係を築き、ファンになってもらうためのコミュニケーションとも言える。

そういう観点からみると「東京の人たちに福井(敦賀)をPRする」その第一歩として、中学生たちが地元をアピールする手作りの資料を作成して、実際に東京まで自ら足を運んでみて、その距離感を確認し、直接声をかけてその認知度や需要を調査することは、とても効果的で意味深いPRではないかと思う。

敦賀PR②

人道の港 敦賀ムゼウム

余談になるが、中学生たちからアンケートを受けるちょうど20分くらい前に、ざーっとチェックしていたネットニュースで「人道の港 敦賀ムゼウム」という資料館が開館から10年経つという記事を読んでいたことを思い出した。ポーランド孤児やユダヤ人難民が敦賀港に上陸した歴史を伝える資料館である。

いわゆる「東洋のシンドラー」として知られる杉原千畝が第2次大戦中に発給した「命のビザ」。それを手にしたユダヤ人難民たちを迎え入れたのが敦賀港であり、住民たちの温かさは「私たちは、何百年経とうと決して敦賀を忘れない」と言わせるほどだったという。敦賀の人たちはPRを正しく行ったといえる。

「福井県はどこ?」で頭がいっぱいになっていたこともあり、なぜか敦賀というキーワードが紐づかなかった。要するに、ありあまる情報を漫然と眺めているだけなんだなという事を改めて考えさせられる機会になった。

なによりバラエティ番組のクイズのように、最後の1問で起死回生の大逆転ができるような、今までの失態を帳消しにしてくれる回答を偶然耳打ちされながらも、しどろもどろになってしまった勝負弱さが悔しい。ポケットティッシュとA4の観光案内を片手に、ほぞを噛むほどに打ちひしがれた昼下がりだった。

いい大人をPRすることも大切な事だ。もし「人道の港」の素晴らしさを伝えることができていたなら、遠方から訪れた修学旅行生との間の「よりよい関係を構築」に、どれだけ加点がついたのだろうか。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
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