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風の谷のパンデミック!「東京の奥座敷」青梅市から日本一の名所がごっそり消えていました…
コミュニティ コミュニティ 2018.03.25

風の谷のパンデミック!「東京の奥座敷」青梅市から日本一の名所がごっそり消えていました…

3月の半ばに友人から梅を見に行かないかと声がかかった。写真を撮りたいのだという。できれば一泊してじっくり梅と向き合いたいが案外宿が高くて諦めたとのこと。取るものもとりあえず日々なにかに追われ散らかしている自分と比べて、なんて風流な人なんだ。季節の花を想えるというのは豊かさだなあと感じた。

待ち合わせ駅で今日の目的地が青梅市の「吉野梅郷」だと知らされた。梅の名所だそうだ。友人は「盛りを過ぎたとはいえまだまだ見応えはあるだろう」というゆらりとした構えだったが梅への期待が高まっているのが見て取れた。車窓を流れる自然が色濃くなっていく。

パンデミックを阻止せよ

しかし「吉野梅郷」のなかでも一面に梅が広がって華やかなはずの「梅の公園」はほとんど不毛の丘であった。寂しい谷間にひょろひょろと頼り無い梅の若木がポツポツと植えられているばかりであった。訪れるまではまったく知らなかったのだが、吉野梅郷では奇しくも国内一の梅の名所として新聞に取り上げられたその年に、梅に感染するウイルス「プラムポックス」が国内で初めて確認された。

そして感染を防ぐために四、五年前に周囲の梅を含め「全伐採」に至ったと言う。その数およそ2万5千本。風の谷のナウシカで大ババ様のくだした苦渋の決断「燃やすしかないよ、この森はもうだめじゃ、手遅れになると谷は腐海にのみ込まれてしまう」を地で行く状況である。

「あの頃はうちの店にもすごい行列ができてね。順番を争って喧嘩が起きたりしてね」通りにある食堂のおばちゃんが当時を懐かしむように話してくれた。店内には最盛期のポスターが貼られたままになっていたが、今や東京の奥座敷は見る影もない。

丘に上がって眺めると植木の支柱が午後の日差しを浴びて墓標のように並んでいる。なんとも痛ましい光景を目の当たりにし「…なんとかならなかったのか」となかなか状況を受け入れられなかった。青梅の人々の傷心たるや察するに余りある。

大聖院の樹齢450年の梅

とは言えここまで来て手持ち無沙汰な感じが否めず一駅ほど歩いて大聖院の梅を見に行った。なんでも吉野梅郷の梅の元祖とも言われる樹齢450年の木があるらしい。しかしここも梅の木といえば門の近くとその脇の植え込みにちらちら若木が植えられているだけで、長い時の流れを偲ばせるような神木は見当たらない。

すでに日は沈みかけていたが、諦めがつかずしばらくネットの画像と見比べながら広くもない境内をぐるぐると探し回っていた。やがてそれとおぼしき場所に行き当たる。境内の裏手、かしいだ桜の向かいにストーンサークルの様に石が並べられているあたりだ。

ここにかつて青梅の名の由来となった「金剛寺の将門誓いの梅」から分かれた神木が大事に植えられてあったのだろうか…。思わず切り株にでも触れようと土に触ってみたが、なんの手応えもない。

梅の名所の現実を突きつけられて石神前駅に着いた頃にはあたりは夕闇に包まれていた。電車を待ちながら「あと三年したら見られる様になるからまた来てください」そう何度も繰り返した食堂のおばちゃんの言葉を思い出していた。

吉野梅郷が再び梅の名所として返り咲く日までの道のりは長いものになるだろうけれど、梅の里の復活を願わずにはいられない。樹木というのは大きくなるのに気の遠くなるような時間がかかるが、案外簡単に損なわれてしまうものなんだなとその儚さをしみじみと感じた。

そういえば梅の公園には、たくさんの吊るし雛が風に揺れていた。ぽつぽつと訪れる私たちのような客のために地域の方たちが飾っているようだ。そこから観光客を再び呼び込もうという想いが伝わってくる。

プラムポックスウイルスの対策強化に取り組んだことにより去年の10月から梅の再植裁が許可されたという。それこそ内村鑑三の「デンマルク国の話」ではないが、デンマークが国を削られ、みんな意気消沈して何事にも手のつかないときに、青年ダルガスが根気強く植樹をすることで国運衰退を打開した例があるように、とにかく梅を新しく植えて育てていくしかないのだろう。

青梅を訪れた将門が馬のムチ代わりにしていた梅の枝を「わが願いがかなわないならば枯れよ!」と地面に突き刺すと、やがて根づいて枝葉が繁茂したという伝説のように、もうそのくらい力強く、魂を込めた植樹をとことんしていってほしい。

高齢化するソメイヨシノ

そして、実はパンデミックは青梅の梅に限ったことではないようだ。一説によると東京のソメイヨシノも間もなく一斉に寿命を迎えると言われている。追い打ちをかけるようにソメイヨシノは桜のなかでも最も「てんぐ巣病」に侵されやすく、すでに伝染は拡大しているそうだ。これにかかるといずれ花は咲かなくなり、木も枯れていくという。

季節がめぐれば当たり前に咲くわけではないのだ。おそらく一歩踏み込んで花を想う気持ちをもっている人たちが暮らすところにのみいつまでも咲き続けるものなのかもしれない。なんだか「地域コミュニティ」の在り方についても考えさせられる時間になった。「世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」とは言うが、本当に美しい桜並木を歩けなくなって慌て散らかす前に、なにかできることがあるような気がしている。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
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