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絵本って読みますか?「MOE 40th Anniversary 5人展」本当の意味の美しさのある本は少しずつ
コミュニティ コミュニティ 2018.05.31

絵本って読みますか?「MOE 40th Anniversary 5人展」本当の意味の美しさのある本は少しずつ

MOEは、今のところ世界でおそらく唯一の絵本専門の月刊誌である。絵本を扱っているといっても大人の読み物なのである。

創刊40周年を迎えることを記念して、MOEにゆかりのある5名の絵本作家の原画を約40点ずつ集めた展覧会が行われた(2018.4.18→5.7)。「島田ゆか・酒井駒子・ヒグチユウコ ヨシタケシンスケ・なかやみわ」という豪華な顔ぶれの揃い踏みとなった。

小雨の降る東京での最終日、予定を切り上げ滑り込みで間に合ったが、内容が非常に充実していて、できることならまた改めてじっくりと鑑賞したい気持ちにさせられる。

MOE 40th Anniversary 5人展

「世界でもめずらしい絵本月刊誌として多くの絵本作家が創り上げた秀作を紙面で紹介してきました。そして現在、絵本はかつてないほどの広がりと多様さを見せ、世界の注目を集めています。」

入場口のすぐ傍に、MOEと「絵本の今」についてそんな一文をみかけた。MOEはたしかに素晴らしい絵本や作家を紹介し続けているが、以前はもっと読者参加型の雑誌だったような印象がある。

誌面には見かけなくなったが、ナイーブアート(童画)的な世界観を好み、作品を投稿していた読者たちは、今でもMOEを支えているのだろうか。

MOEは絵本の真の読者、絵本読みの達人

梅花女子大学の香曽我部秀幸氏によれば、人が絵本を身近に置いて楽しむ期間は、一生に3回あると考えることができるという。

  • 1回目は、赤ちゃんから子どもの時代に、おとなから与えられたものを楽しむ。
  • 2回目は、自身が子育てをする時期。自らが絵本を選ぶ立場に立つため、非常に充実した読者になりうる。
  • 3回目は、子育てから解放され、子どもと共に楽しんだ貴重な絵本体験を基に、客観的に自由な立場で自分自身が絵本を愉しむ。

参考:絵本──世代を超えて共有する文化財

1回目から2回目の期間の空白。子どもからおとなになるまでに、大多数の人たちはいったん絵本から離れていくというが、ずっと絵本が大好きで読み続ける人たちが一定数いるという。

MOEはそういう絵本好きたちのアイコンでもあり、ある意味でMOEという存在こそが、絵本に絶え間なく寄り添って過ごしてきた絵本の真の読者、絵本読みの達人といっても過言ではない。40年という時間のなかでそんな豊かな視点を養ってきた月刊誌なのではないだろうか。

MOE 40th Anniversary 5人展①

MOEは絵本作家の水先案内人

「そらまめくん」のなかやみわが絵本作家になるきっかけやMOEへの想いを語ったキャプションも印象的だった。

「絵本作家になる前はキャラクターデザインの仕事をしていました。仕事は楽しかったですが、キャラクターは時代に消費されていくシビアな面があり、私には向かない仕事でした。そんな中、絵本は世代を超えて読み継がれるものであると知り、絵本作家に憧れ、手作りでたくさんの絵本をつくるようになりました」

さらにMOE40周年についてお祝いの言葉が「MOEは絵本作家の水先案内人」というタイトルで書かれていた。

「私が絵本作家を目指した頃は、現在とは違いWebやSNSなどなく、情報を集めるのが大変でした。そんな時代に頼りにしていたのが絵本情報の充実していた「MOE」でした。「MOE」に載っていた絵本講座に参加することで私は、絵本の作り方や持ち込みの方法を知り「MOE」に載っていたイベント情報を読んで絵本作家や絵本編集者の講演会に足を運ぶことができました。

そうする中で、絵本の制作現場の空気感を感じ、絵本に込められた作り手の思いを学んできました。「MOE」の存在がなければ今の私はなかったと思います。あらためて「MOE」に感謝の意を表し、創刊40周年を迎えたことを心からお祝いいたします。なかやみわ

MOE 40th Anniversary 5人展②

かこさとしがMOEに語ったこと

この2日後、5月9日にに絵本作家かこさとし(加古里子)が亡くなった。「だるまちゃんとてんぐちゃん」「からすのパンやさん」等でまさに世代を超えて愛され続けている作家だ。終戦後から約70年の間に発表してきた作品数は600を超えるという。かこさとしの絵本への想いが胸に響くようなコメントがMOEの2006年10月号に紹介されている。

「大人がわざわざつくって子どもに与えるものはすべて教育であるべし、なんですよ」。狭義の「教訓」でなく広い意味での「教育」に資するようにと願って絵本をつくってきたかこさんが、次代の作家たちに望むのは「私たちのときにはなかったような、もっとおおらかな、広い、本当にすてきなもの」だそう。「それはきらやかさ、きれいさだけではなくて、人間と人間のつながりの素晴らしさを謳歌する、本当の意味の美しさのある本です。それは他の学問の方たちの成果と相まって、少しずつできてくると思います」

望むのは「人間と人間のつながりの素晴らしさを謳歌する、本当の意味の美しさのある本」まさにその通りだなと思う。そうあってほしいと思う。この手の文化は誕生するものではなく、涵養から生まれるものなのだ。長い歳月の中で、本当によいものが選別され、文化の中に蓄えられていく。

MOE 40th Anniversary 5人展③

MOEはこれからも続くのか

たとえば児童文学ではスロバキアの「ブラティスラヴァ世界絵本原画展」は「国際アンデルセン賞」に並ぶ権威のある賞とされている。

社会主義国だったチェコスロバキア時代、自由な表現が厳しく制限されていくなかでも、子ども向けの絵本に対しての規制は緩く(人形劇なども)、その領域に芸術家たちの創作が集中したことが、表現の成熟につながったと聞いたことがある。

やはりある文化の中心地であるためには、情熱が冷めることなく、また取り組みが途切れることなく、新しい試みが継続されていくことが非常に大事なのだと思う。

多くの雑誌が廃刊に追い込まれる中、やなせたかしが編集長を務めていた月刊誌「詩とメルヘン」も姿を消してしまった。

この逆境において世界でもめずらしい絵本月刊誌MOEがこれからも続いていくことは、日本における絵本文化の成熟におけるの一つのバロメーターではないかと感じている。

MOEは絵本文化の伴走者であってほしい

例えば、日本にも「かつてないほどの広がりと多様さをみせる絵本の世界」を支えられるような文化的な背骨が、時間はかかるとしても形成されてはいかないだろうか。

また夢のような話かもしれないが、かこさとしの考えるような「人間と人間のつながりの素晴らしさを謳歌する、本当の意味の美しさのある本」に与えられる国際的な賞がいつか創設されることはあるだろうか。

訃報に触れてそんな考えが頭を巡った。

絵空事かもしれない。それでも「MOE 40th Anniversary 5人展」は絵本に込められた作家たちの情熱と夢であふれていた。かこさとしが望みを託した次代の作家たちは、確実にそのバトンを受け取っているように感じられる。

そしてMOEもきっと絵本文化の頼れる伴走者としてこれからも走り続けていくのだと思う。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
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