人生の大先輩
夏休みに二人の子どもを連れて、祖母のいる九州は宮崎に帰省した。
夏に帰省するのは毎年のこと。離れた祖母や叔父・叔母に元気な顔を見せにいくというのが一番の目的だが、宮崎ののんびり感じる時間の流れと、温かみを感じる環境に浸りたいというのもある。
子どもたちと町を歩けば道行くおじいさん、おばあさんが声をかけてくれる。呆け防止で作ってるんだよと折り紙で折ったうさぎをくれる。帰省していると分かると「美味しいもの食べて帰るんだよ」と満面の笑みで答えてくれる。本当に大好きな場所だ。
祖母は92才。買い物に杖も使わず背筋を伸ばし元気に歩いて行くし、食事だって自分で作る。庭には自分で育てた「しょうが」「空しん菜」「里芋」に「ブルーベリー」など旬の野菜果物がたくさん。毎日手入れを欠かさない。ヨガにも30年以上通い、体に気を配っている。若いときは小学校の教員をしていた。今でも生徒たちとの繋がりがあり、手紙でのやりとりをしている。
そんな祖母に、私は昔から反抗できない。
なぜだろう。ずっと不思議だった。
この夏、ひ孫である私の子どもたちがケンカしているときにその理由がわかった。
祖母は感情的に怒ったりしない。駄目なことをしても大きな声を出して叱ったりしない。駄目なことは駄目と言うが、言い方が穏やかなのだ。まるで諭される感じ。目をずっと合わさず窓の外を時折見ながら話すのも、威圧感がなく心に染み入っていく。
私はどうだろう。自分に余裕がないとすぐ子どもに大きな声を出してしまう。
何とか分からせたいと必死に叱ってしまう。それで本当に子どもに伝わっているのだろうか。2人の子育てに追われていた私は、祖母から心のメッセージをもらった気がする。
元気いっぱいの子どもたちとの生活。2週間滞在の予定だったが、10日過ぎたころから祖母の食欲が落ちた。いくら元気な92歳とはいえ、2人の子どもたちとの生活は体に堪えるようだ。
大好きな祖母が年々歳をとっていくのを感じ、寂しい気持ちになる。それを感じない無邪気な子どもたち。長女は、「私が15歳になったら、おばあちゃん102歳だね!」と嬉しそうに話す。次女は力いっぱい祖母の胸に飛び込んでいく。
来年は滞在期間を短くしたほうが良さそうだ。
それでも、夏の帰省が一年でも長く続くよう、祈るばかりである。