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心の検問所
コミュニティ 2017.08.29

心の検問所

勤め先では入退館の際にセキュリティカードを使用する。社内では常に携帯していなければならないので煩わしくもあるが鍵を預かってると考えれば納得もいく。しかし機密性の高い情報を扱うエリアに関しては社内共通のセキュリティとは別に、生体認証システムが設定されている。

業務上、その高度セキュリティエリアへの入室が必要ということで、先日、チームメンバーたちにも指の静脈データを登録してもらったのだが、やや抵抗感があったように感じられた。たしかにあまり気持ちのいいものではないだろうことは察せられる。

自尊心を奪う検問所

最近では海外の検問所でも生体認証が導入されているケースがあると聞く。例えばパレスチナ占領地(イスラエルによる占領)には多くの検問所が設置されていて、イスラエル領内や入植地で働くパレスチナ人労働者には生体認証が義務付けられているという。生活のためとはいえ、どんな気持ちで登録の手続きを受け入れているのだろうかと思いを馳せてみる。

イスラエルは、占領地からの撤退を求める国連安保理決議に反し、検問所などによる実質的な占領を続けている。そういえば先月もエルサレム旧市街にあるイスラム教の聖地の入り口にイスラエルが金属探知機を設置したことにより、パレスチナ人との関係が悪化していることがニュースになっていた。

現代アートのフレーミング

そんな中、ふと5年前に森美術館で現代アラブ美術が展示された「アラブ・エクスプレス展」で印象的だったある作品の事を思い出してネットで調べてみた。ルラ・ハラワーニの《親密さ》。検索すると公式サイトにアップされた作品を見ることができる。

アラブの世界の中の多様性を日本に紹介したい~ インタビュー:「アラブ・エクスプレス展」近藤健一編(1)

パレスチナ人居住区とエルサレムの間に設けられたカランディヤ検問所。職場や学校に行くためにはこの検問所を通過する事が強制されている。そこで行われている身分証明書のチェックや荷物検査の様子を、その「手元のみ」にフォーカスして隠し撮りしたルラ・ハラワーニの《親密さ》。対立している両者の手はややもすれば触れそうなほどで、親密さを感じさせるわけだが、実際にそこにあるのは《不信》である。カメラの角度によっては手を繋いでるようすら見えるのにも関わらず、緊張や苛立ち、または諦めがそこに満ちているわけだ。アイロニーだけでなく含蓄のある作品だと感じる。

フリーパス

この作品を鑑賞した際、ある事に気がついた。例えばコンビニで働く中国人とお客の日本人。そのレジでのやりとりを撮影してもおそらく《親密さ》は再現できるような気がしてしまう。お互いにあまりに無関心でいるように感じられるが、すでに無関係ではいられない身近な間柄だ。中国人店員の接客への不満を耳にする事はあるが、レジの内側からは日本人はどう見えてるのだろうかと気になることがある。できることなら彼らが日々感じている事を少しでも知ることはできないものか。

日本には240万人弱いるという在留外国人。これからは日本人だけでは維持できない社会への体質の変化に拍車がかかっていくはずだ。2020年のオリンピックを一つのきっかけに、お客としての外国人を受け入れるだけではなく、ゆくゆくは地域を担う存在として定住してもらえるような、心地よい共存の形を信頼関係を深めながら相互に模索していくべきだと感じる。絵空事ではなく「シビックプライド」をもって地域の課題に取り組んでくれる外国人が珍しくないぐらいの状態が望ましいと思う。

外国人に向けて日本社会が門戸を広げつつあることは肌で感じているが、一定の審査基準をパスしていても、一歩踏み込む事を妨げる見えない検問所がささやかながら至る所に設置されているように感じるのは私だけだろうか。とくに心の中にはより高度なタイプのものが設置されてはいないだろうか。

この記事を書いた人 関口オーギョウチ 埼玉在住。サブカルやマイノリティがつくるコミュニティに関心あり。矯めつ眇めつそこに宿る魂に触れたいなと思ってます。 関口オーギョウチの記事をもっと読む>>
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