コミュニティ チーム 家族 コミュニケーション 寄稿記事/取材依頼/お問い合わせ
教育疎開する家族(後編)
家族 家族 2017.11.18

教育疎開する家族(後編)

東京の某郊外にあるAさんの住む街へと向かう途中の車窓から見える景色は、「ここも東京?」と思わず驚くほど、周囲に自然が多かった。晴れた空の色と畑の作物の葉っぱの色のくっきりとしたコントラストが、網膜を刺激してくる。

東京にこんなのどかな場所があることを、その日まで知らなかった。

やがて、畑の景色と住宅が立ち並ぶ景色が、走る車窓で交互に訪れるのを眺めているうちに、教えてもらった駅に到着した。

そして、スマホでグーグルマップを起動させると、Aさん宅の住所を検索し歩き始めた。

知性より感性を育む子育てを求めて

Aさん家族は、都心のマンションから郊外の中古の一戸建てに住み替えていた。

南向きの広い庭で、色々なことができる可能性を感じたことが、決め手だったそうだ。

日曜日はたいてい近くにある大きな公園で遊ぶか、庭で各自の「作業」をしながら過ごすという。

建築家のご主人は、モノづくりの血が一気に騒いだそうで、引っ越し後に最初に取り組んだことは、庭に植えられた大きな木に手作りのブランコを設置したこと。

お子さんからの尊敬の眼差しを集めたご主人のモノづくりはその後も加速し、最近はピザづくりにハマると、生地から作るだけでは満足できずに、なんと庭に窯まで自作してしまったと、Aさんが呆れていた。

そんなお手製の窯で焼きあげられたピザを頂いてみたら、本当に美味しかったのだ。

上に乗せられた野菜は、家庭菜園で育てたものだそうで、家族総出で作られたピザのストーリーを聞いただけで、私はワクワクしてしまった。


「本当は〇〇県の〇〇〇にでも思い切って移住したかったけれど、私の仕事上さすがに東京からは離れられなくて、ここに決めたの。」

「こっちに引っ越してから、子どもたち以前より活発になったわ。自然で思いっきり遊ぶって、何よりも刺激を受けるみたい。本物を見て触ることは、図鑑で知識を得ることの半分にも満たないんだって、この子たちを見て実感させられるの。」

Aさんはそう言うと、プリンカップを二つに合わせてテープで張り合わせたケースの中にいる、小さな黄色い虫を見せてくれた。

「これね、バナナ虫って言うんだって。今朝、子どもが庭でみつけたの。」

すると、下のお子さんが側にきて、

「かわいいでしょ。」

と囁きながら、プリンカップを手に取り、もっと近くで見て、と言う。

黄緑色の、どことなく愛嬌のあるこの小さな虫に出会ったのは、私には初めてだったため、とても貴重な虫のように感じた。

プリンカップを大切に持ちながら、飽きずに目を凝らして眺めているお子さんの表情は真剣そのもの。

虫一匹にも、童心のおもむくままに探求心を持つ感性を育てる、まさに自然は遊び場であり、学び場であることを実感させられたのだった。

この記事を書いた人 おおつかけいこ 教師歴10年の経験をもつ教育者。ライティングの「ものかき」でマネージャーを務めるほか幼児教室も主宰 おおつかけいこの記事をもっと読む>> 最新記事を毎日お届け
教育疎開する家族(後編)

この記事が気に入ったら

関連記事